あれは、娘が小学校二年生の夏のことでした。いつものように娘の髪を三つ編みにしてあげていると、ふと分け目のあたりがやけに白いことに気がつきました。光の加減かな、と最初は思いました。でも、日を変えて見てみても、なんだか地肌が透けて見えるようなのです。「最近、髪の毛が細くなった?」と何気なく尋ねると、娘はきょとんとした顔をするだけ。私の考えすぎかもしれない。そう自分に言い聞かせようとしましたが、一度気になり始めると、もう止まりません。お風呂の排水溝に溜まる髪の毛の量が、以前より増えたように感じられ、枕についた抜け毛を一本一本数えては、ため息をつく夜が続きました。夫に相談しても「子供の髪なんてそんなものだろう」と気にも留めてくれません。友人にも相談できず、一人でスマートフォンの画面とにらめっこする毎日。「子供 薄毛」「小学生 抜け毛 原因」そんな言葉で検索しては、出てくる病名の数々に胸が締め付けられるようでした。このままではいけない。私の不安が、きっと娘にも伝わってしまう。そう思い至り、私はようやく小児科のドアを叩く決心をしました。先生は私の話をじっくりと聞いてくださり、娘の頭皮を丁寧に診察してくれました。そして、「お母さん、心配だったでしょう。でも、特に病的な脱毛は見当たりませんよ」と優しく告げたのです。血液検査の結果も異常はなく、おそらく一時的なものだろうとのことでした。その言葉に、全身の力が抜けていくのを感じました。結局、明確な原因は分かりませんでしたが、先生から栄養バランスの良い食事や睡眠を心がけるようアドバイスを受け、それまで以上に娘の生活に気を配るようになりました。そして数ヶ月が経つ頃には、いつの間にか髪のボリュームも元に戻っていたのです。今思えば、私の過剰な心配が、あの時の不安を何倍にも大きくしていたのだと思います。もし同じように悩んでいるお母さんがいたら、一人で抱え込まず、まずは専門家を頼ってください。その一歩が、きっと心を軽くしてくれるはずです。