かつらは古くから人類の歴史に存在し、その役割や社会的な位置づけは時代とともに大きく変化してきました。現代社会におけるかつらは、多様なニーズに応える多機能なアイテムとして進化しそれを取り巻く人々の意識も大きく変容しています。歴史を遡ると、古代エジプトでは衛生上の理由や宗教的な意味合いからかつらが使用され、王族や貴族の間で盛んに用いられました。中世ヨーロッパでは、カツラは富と権力の象徴となり、特に17世紀のフランスではルイ13世が薄毛を隠すために着用したことをきっかけに、上流階級の間で大流行しました。この頃のかつらは非常に大きく装飾的で、その維持には多大な費用と手間がかかりました。日本では、平安時代に結髪文化が花開き、髪型によって身分や年齢、既婚・未婚が示されるなど、かつら(鬢付け油で固めた髷など)は社会的な意味合いを持つものでした。近代に入り衛生観念の変化やファッションの簡素化が進むにつれて、かつらは日常的なものから、舞台や特定の職業(裁判官など)での使用に限られるようになっていきました。そして20世紀後半になると、かつらは薄毛を隠すための「秘密のアイテム」というイメージが強くなり、着用者にとっては少なからず心理的な抵抗感を伴うものでした。転換期が訪れたのは、21世紀に入ってからです。医療技術の進歩により、抗がん剤治療による脱毛など、医療的な必要性からかつらを着用する人々が増え始めました。これにより、医療用かつらの開発が進み、より自然で快適な製品が登場するようになりました。同時に、有名人やインフルエンサーがファッションとしてかつらを着用する姿がメディアで紹介されるようになり、かつらに対するネガティブなイメージは薄れていきました。現代において、かつらはもはや「隠すもの」だけではありません。薄毛や脱毛で悩む人々が自信を取り戻し、社会生活を円滑に送るための「サポートツール」としての役割は揺るぎないものとなっています。さらに、髪の色や長さを気軽に変えたい、様々なスタイルに挑戦したいといった「ファッションアイテム」としての需要も高まっています。多様な素材やデザイン、装着方法の選択肢が増え、より個人のニーズに合わせたかつら選びが可能になったことも、その普及を後押ししています。かつらを巡る社会の変遷は、人々の美意識や価値観の変化、そして技術の進歩を反映しています。
かつらを巡る社会の変遷