AGAクリニックの真実

高校二年の春、僕は鏡を見るのが地獄だった。シャワーを浴びれば排水溝にたまる髪の毛の量に吐き気がし、朝、枕についた抜け毛を数えては絶望的な気分で一日が始まる。きっかけは些細なことだった。クラスの友人から「あれ、お前、分け目ヤバくない？」と悪気なく言われた一言。その瞬間から、僕の世界は一変した。周りの視線がすべて自分の頭頂部に集まっているように感じ、人の前に立つのが怖くなった。授業中も先生の話なんて頭に入ってこない。前の席のやつのフサフサした後頭部を眺めては、自分の薄い頭を呪った。好きだった子に話しかける勇気も消え、部活のサッカーにも身が入らなくなった。まさに暗黒時代だった。親にも相談できず、一人でネットの海をさまよった。「高校生 薄毛 治る」と検索しては、育毛剤の広告や絶望的な書き込みに一喜一憂する毎日。このままじゃダメだ。そう思った僕は、なけなしのバイト代を握りしめ、皮膚科のドアを叩いた。診察の結果は、男性型脱毛症（AGA）ではなく、ストレスと生活習慣の乱れによる休止期脱毛だろうとのこと。その診断に、少しだけ光が見えた気がした。医師からは、特別な薬ではなく、まずは生活を根本から見直すよう指導された。それから僕の戦いが始まった。夜十一時には寝て、朝六時に起きる。スナック菓子やカップラーメンをやめ、母親に頼んでタンパク質や野菜中心の弁当を作ってもらった。シャンプーは指の腹で優しく洗い、血行をよくするために毎日三十分のジョギングを始めた。正直、最初の数ヶ月は何も変わらなかった。何度も心が折れそうになった。でも、「ここで諦めたら一生このままだ」と自分を奮い立たせた。半年が過ぎた頃だろうか。ふと鏡を見ると、分け目の地肌の白さが、以前より目立たなくなっていることに気づいた。産毛が生えてきたのだ。その時の感動は、今でも忘れられない。高校三年の夏、僕は昔のように笑えるようになっていた。薄毛が治ったことは、ただ髪が生えた以上の意味があった。それは、自分と向き合い、困難を乗り越えたという、揺るぎない自信を僕に与えてくれたのだ。