AGAクリニックの真実

ある土曜の朝、リビングでテレビを見ていた小学三年生の息子の頭に、ふと目をやった時だった。髪の毛の中に、ぽっかりと白い地肌が覗いている。見間違いかと思って近づくと、そこには間違いなく、百円玉くらいの大きさの、つるりとした円形の脱毛があった。妻はすでに気づいていたようで、私の視線に気づくと、静かに頷いた。「円形脱毛症」。言葉としては知っていたが、それが自分の息子の身に起きたという事実に、頭を殴られたような衝撃を受けた。父親として、何をしてやれるだろうか。まず頭に浮かんだのは、原因のことだ。ストレスだろうか。最近、サッカーのクラブでレギュラー争いが激しいと話していた。友達関係で何か悩んでいるのか。それとも、親である我々の言動が、知らず知らずのうちにプレッシャーになっていたのだろうか。答えの出ない問いが、頭の中を巡った。妻と話し合い、すぐに皮膚科へ連れて行った。医師は典型的な円形脱毛症だと診断し、塗り薬を処方してくれた。そして、「お父さん、お母さん、あまり深刻になりすぎないでくださいね。それが一番の薬ですから」と付け加えた。その言葉は、私にとって大きな救いだった。それから、私は息子との関わり方を少しだけ変えてみることにした。これまでのように「練習頑張れよ」「宿題やったか」と結果を求めるような声かけだけでなく、休みの日に一緒にキャッチボールをしたり、ただ他愛もない話をしたりする時間を意識的に増やした。息子の頭の円を、あえて話題にすることはしなかった。ただ、彼が気にしている素振りを見せた時には、「大丈夫、すぐ生えてくるさ。父さんも昔、できたことあるぞ」と、嘘も交えながら、できるだけ明るく伝えるようにした。学校の担任の先生にも事情を話し、もし友達にからかわれるようなことがあれば、さりげなくフォローしてもらえるようお願いした。幸い、息子の脱毛は数ヶ月で少しずつ産毛が生え始め、やがて元に戻った。何が直接的な回復のきっかけだったのかは分からない。でも、あの出来事を通じて、私は父親として、子供の成果や成長だけでなく、その過程や心の状態にもっと寄り添うことの大切さを学んだ気がする。