高校一年生の息子が、ある日ぽつりと「最近、髪の毛がよく抜けるんだ」と打ち明けてきたのは、夕食後のことでした。最初は男の子だし、気にしすぎだろうと軽く考えていましたが、それからというもの、お風呂場の排水溝や、息子の部屋の床に落ちている髪の毛が、明らかに増えていることに気づきました。何より、息子の表情から笑顔が消え、鏡の前でため息をつく姿を見るのが、親として何よりつらかったです。夫と相談し、まずは専門家の意見を聞こうと、皮膚科へ連れて行くことにしました。息子は抵抗するかと思いましたが、本人も深く悩んでいたのでしょう、素直に応じてくれました。医師の診断は、遺伝的なものではなく、受験期からのストレスや生活習慣の乱れが原因だろうとのこと。そして、「ご家族のサポートが大切ですよ」と言われ、私たち親も、息子と一緒にこの問題に取り組む覚悟を決めました。そこから我が家の生活は少しずつ変わっていきました。それまで息子の食事は、部活帰りに買い食いをしたり、夜食にカップラーメンを食べたりと、お世辞にも褒められたものではありませんでした。妻は栄養学の本を読み、髪に良いとされるタンパク質や亜鉛、ビタミンを豊富に含んだメニューを毎日工夫して作るようになりました。私は、夜更かししがちな息子に「早く寝ろ」と頭ごなしに言うのではなく、「一緒に少し走らないか」と誘い、軽いジョギングを共にすることで、生活リズムを整え、ストレスを発散させる時間を作りました。何よりも気をつけたのは、息子の髪のことを過度に話題にしないことです。彼の不安を煽るだけだと考え、私たちはただ、彼の心と体に寄り添うことに徹しました。変化はゆっくりとしたものでしたが、三ヶ月ほど経った頃、息子の表情が少しずつ明るくなってきたことに気づきました。そして半年後、以前のように髪のボリュームが戻り、彼が友人たちと屈託なく笑っている姿を見た時、妻と二人で目頭が熱くなったのを覚えています。息子の薄毛が治ったことは、私たち家族にとって、絆を再確認する大切な経験となりました。